聖なる師父ドロフェイの弟子、 福たる師父ドシフェイについての話
我らの師父、福たるドロフェイは、神に喜ばれる生活に燃え、また修道生活を愛し、師父セリドの修道院に向かった。そして、そこで沈黙のうちに修行している多くの偉大なる守斎者*1を見つけた。彼らの中で特に際立っていたのは、二人の偉大なる長老、聖ワルソノーフィーと彼の弟子にして同守斎者、主から慧眼(けいがん)*2の賜物を得ていることから、預言者と呼ばれている師父イオアンである。聖なるドロフェイは己をこれらの守斎者の指導に委ね、あらゆる熱意をもって彼らに倣(なら)うようになった。聖なる師父セリドと共に、克肖者ドロフェイはしばしば長老大ワルソノーフィーのもとに来て、長老と対話し、預言の賜物で際立っていた師父イオアンに奉仕する恵みを得た。このようにして福たるドロフェイは師父セリドの修道院に滞在し、従順の偉業に励んだ。その時、上述した聖なる師父たちは、師父ドロフェイが病院を設立し、自ら病院を監督するように決めた。というのは、兄弟たちは、病気になった時、彼らを見守り、世話をする人がいないので、とても苦しんでいたからだ。神の助けにより、克肖者〔ドロフェイ〕は肉親の兄弟の助けで病院を設立した。この兄弟は敬虔で、修道士を愛し、聖なるドロフェイに病院建設に必要な資金を与えてくれた。この時から、師父ドロフェイは、これを修道院の師父たちから彼に任された従順とみなして、他の敬虔なる修道士と共に、病人や旅人に仕えるようになった。
ある時、修道院長のセリドは克肖者ドロフェイを呼んだ。ドロフェイがセリドのもとに来ると、彼のそばにいる軍服姿の大変若い、ある美しい若者が目に留まった。この若者は、師父セリドから愛されていて、しばしば師父のもとに来ている貴族の召使いと共にこの修道院にやって来たのだ。師父ドロフェイが来ると、師父セリドはドロフェイ一人を招きよせて、言った。
「この人たちはこの若者を連れてきたのだが、彼らによると、若者は私たちの修道院に入りたいのだそうだ。しかし私はこの者がどこかの貴族の息子ではないかと心配している。もしかしたらこの若者は盗みを働いたか、何か悪いことをして隠れたいのかもしれない。もしも私たちが彼を受け入れたら、私たちも危険な目に遭うだろう。こう思うのは、彼の服装も外見も修道の偉業を望んでいる人物のようには見えないからだ。」
若者は確かにある軍人の親戚だった。今まで、富の中にあって甘やかされた生活スタイルに慣れていた若者は、まだ神の言葉を聞いたことがなかった。この軍人の召使いたちは若者がいる前で時々、聖なる都エルサレムについて話した。それで若者は聖都を見たいと望み、かの軍人に聖都を見るために暇を与えてくれるように頼んだ。若者の願いを断って、悲しませたくなかったこの軍人は、聖都訪問を企画していた、ある親しい人に頼んだ。
「どうか好意を示してくれないか。この若者も聖都を見られるように、一緒に連れて行ってもらいたいのだ。」
旅行者は若者を連れ、彼にできる限りの待遇をし、彼に困ったことがないようにと大いに気を配った。
旅行者は聖都に到着すると、聖地に伏拝し、ゲッセマネにも来た。そこには神の恐るべき審判のイコンがあり、さまざまな地獄の苦しみの様子が示されていた。このイコンに目を留めると、若者は注意深く見入り、驚愕した。すると彼のすぐそばに王妃の衣を着た尊貴なる女性を認めた。彼女は彼に、裁かれた人々一人一人の苦しみを説明し、教訓を付け加えた。彼女の話を聞くと、若者は驚いて沈黙した。というのは、前述したように、彼は一度も神の言葉を聞いたことがなく、最後の審判については何も知らなかったからだ。ついにこの女性に向き直って、言った。
「ご婦人よ、この苦しみから免れるために、私たちは何をしなければならないのですか。」
すると彼女は答えた。
「斎(ものいみ)*3をしなさい。肉を食べてはいけません。できるだけ頻繁に祈りなさい。そうすればこれらの苦しみから逃れられるでしょう。」
若者にこの三つの戒めを与えると、王妃の衣を着た女性の姿は見えなくなった。
若者はくまなく辺りを巡って、必死に彼女を探した。彼は彼女が普通の女性だと思ったのだが、どこにも彼女を見つけることはできなかった。というのは、この女性は、至聖至潔なる生神女(しょうしんじょ)*4処女マリヤご自身だったからだ。
不思議な女性の教訓は若者に強い印象を与えた。心を打たれた若者は、ゲッセマネで見かけた女性が彼に与えた三つの戒めを、厳しく守り始めた。軍人の友人は帰り道、若者が斎して肉を食べないのを見て、軍人を恐れて悲嘆にくれた。というのは軍人が大変この若者を愛していることを知っていたからだ。彼らと共にいた兵士たちは、若者のこのような節制を見て、言い始めた。
「旦那さん、あなたはこの世に住んでいる人々がやらないようなことをやっているじゃないですか。そんなことは修道院でしかやりませんよ。修道院に行って、そこで自分の霊(たましい)を救いなさい。」
神については何も知らず、修道院というのがどんなものかも知らない若者は答えた。
「私をどこかの修道院に連れて行って下さい。というのも自分でもどこに行くのかわからないからです。」
若者に同行した兵士の何人かは、特に師父セリドを尊敬していた。そこで彼らはこの若者と一緒に彼の修道院にやって来た。
修道院長は、福たるドロフェイを遣わして、若者と話し、この若者が何者か探るように命じた。克肖者ドロフェイの全ての質問に若者はただ一つの答えをなすだけだった。
「私は救われたいのです」と。
そこでドロフェイは修道院長のもとに来て、院長に言った。
「もし彼を受け入れるならば、恐れることはまったくありません。彼から何も悪いことは期待できません。」
修道院長は答えた。
「師父よ、彼に憐れみを示してやりなさい。あなたに教えられて彼が救いを得るように、自分のもとに引き取りなさい*5」
しかし謙遜なる修道士は断って言った。
「引き取るわけにはいきません。なぜならそれは私の力の及ばないことだからです。彼を救いの道に向かわせることは私にはできません。」
修道院長は彼に異議を唱えた。
「私はあなたの救いと、あなた方全ての救いを慮(おもんぱか)っている。あなたは一人の若者の救いを慮りたくないというのか。」
ドロフェイは提言した。
「師父よ、もしよろしければ、一緒に大ワルソノーフィー長老の助言を請うてみたいのですが。」修道院長は答えた。
「よろしい、私が彼に話そう。」
ワルソノーフィーのもとに赴くと、修道院長は起こった全てのことを長老に告げた。その時聖なるワルソノーフィーはドロフェイに言った。
「その少年を引き取りなさい。なぜなら、主はあなたを通して彼を救おうとされているからです」と。
この言葉を聞くと、福たるドロフェイは大変喜んで若者を引き取り、彼と一緒に病院に住まわせた。この若者の名はドシフェイと言った。昼食の時間が来ると、師父ドロフェイはドシフェイに言った。
「行って、少し力をつけなさい。ただどれだけ食事を摂ったか、私に言いなさい。」
ドシフェイは戻ってきて言った。
「パンを一つと半分食べました、パンは一つ四リットル*6でした。」ドロフェイは彼に尋ねた。
「これで十分か。」若者は答えた。
「はい、ご主人様、私にはこれでまったく十分です。」
ドロフェイは尋ねた。
「おなかは空いてないか。」
ドシフェイは答えた。
「いいえ。」
師父ドロフェイはこれに答えて言った。
「次回はパンを一つと四分の一食べなさい。そして他の四分の一を二つに分けて、その一つを同様に食べなさい。」
ドシフェイは次も同様に行った。
ドロフェイは尋ねた。
「おなかは空いていないか。」
ドシフェイは答えた。
「はい少し空いています。」
数日経つと福たるドロフェイは、また彼に尋ねた。
「子よ、おなかは空いていないか。」若者は答えた。
「いいえ、ご主人様、あなたのお祈りのおかげで、私はとても爽快です。」
「次にはパンを一つと四分の一食べなさい。」
ドシフェイはそのように行った。数日後、克肖者ドロフェイは再び彼に尋ねた。
「我が子よ、今空腹を感じていないか。」
「いいえ、私は満腹です。」
聖なるドロフェイは言った。
「他の四分の一を二つに分け、その一つを食べなさい。もう片方は取っておきなさい。」
ドシフェイは指導者の言葉を実行した。次第に神の助けによって、ドシフェイは六リットルの代わりに八オンス*7だけ(つまり六十四ドラクマ*8)食事をするようになった。なぜなら、全てにおいて言えるように、食べ物にも習慣が大切だからである。人間は誰でも、慣れた量だけ食べるものなのだ。
福たるドシフェイはあらゆることを静かに穏やかに行った。彼は病院で病人に仕え、病人はみな彼の世話に感謝した。なぜなら衛生管理に気を配ったからだ。もし彼が疲れて病人の誰かに怒ってものを言ってしまうと、すぐさま病院を出て、自分の食糧倉庫に入り、泣いた。このような時、病院に勤めていた他の人々は彼を慰めようとしたが、彼らの努力は徒労に帰した。ドシフェイは頑として聞き入れなかった。それで彼らは師父ドロフェイのもとに行って、言った。
「師父よ、憐れんで下さい。何のことで兄弟ドシフェイが泣いているのか、見て下さい。私たちはその理由もわからず、ドシフェイを慰めることができないのです。」
克肖者ドロフェイは食糧倉庫に入り、自分の弟子が地べたに座って泣いているのを見て、彼に問うた。
「どうしたのだ、ドシフェイ、何を泣いているのだ。」
ドシフェイは答えて言った。
「師父よ、お赦し下さい。私は怒って自分の兄弟に悪い言葉を吐きました。」
その時師父ドロフェイは彼に言った。
「なぜ怒ったのだ、ドシフェイ、なぜ怒って自分の兄弟にものを言ってもいいと思ったのだ。知らないのか、兄弟を悲しませる時、お前はハリストス(キリスト)を悲しませるのだ。」
ドシフェイは頭を下に垂れて、何も答えなかった。ドロフェイはドシフェイがもう十分に悔いた、と見ると、静かに彼に言った。
「願わくは、神はお前を赦さん。立ちなさい。今日から悔い改めの基(もとい)を立てなさい。自分の熱心をより善を行うことに向けようではないか。そうすれば、神は私たちを助けて下さるだろう。」
するとドシフェイは立ち上がって、喜んで、あたかも神から赦しを得たように、自分の仕事に取り掛かった。病院にいた人たちはまもなくドシフェイの習慣を知り、ドシフェイが泣いているのを見ると、言った。
「ドシフェイに何かあったな、何か罪を犯したんだ。」そして福たるドロフェイのもとに行くのだった。
「師父よ、食糧倉庫に行ってください。そこで、あなたがするべきことがあります。」
ドロフェイが倉庫に入って自分の弟子が泣いているのを見ると、またドシフェイが誰かに悪い言葉を吐いたと悟って、彼に言った。
「どうしたのだ、ドシフェイ。また神を悲しませたのか。また怒りの感情に身を任せたのか。お前は改めると心に決めたことを忘れたのか。」
克肖者ドロフェイは、自分の弟子がすでに多くの涙を流したと見て取ると、彼に言うのだった。
「起きなさい、ドシフェイ。願わくは、神はお前を赦さん。自分でも気を付けて、再び改まりの基を立てるように心掛けなさい。」
これらの言葉で慰められたドシフェイは悲しむのをやめて、寝床を延べに行くのだったが、その時はすでに穏やかに行っていた。次第に自分の指導者の前で全ての行いと考えを告白するようになった福たるドシフェイは、病人のためにやわらかい寝床を延べながら、しばしば通りかかるドロフェイに言った。
「師父よ、良心が私に、私は上手に寝床を延べると言います。」
この言葉を聞いて、師父ドロフェイは彼に答えた。
「驚くべきことだ、ドシフェイ。お前はよい召使い、すばらしい寝室係になるだろうが、お前はまだよい修道士にはなっていない。」
克肖者ドロフェイはドシフェイが何かに執着することを決して許さなかった。そして弟子のドシフェイは自分の教師の戒めを全て守った。ドシフェイに着るものが必要な時、師父ドロフェイは自分の弟子に、自分で衣服を縫うように命じて、布を渡した。福たるドシフェイは退出して委ねられたことを入念に行った。彼が仕事を終えると、師父ドロフェイは彼を呼んで言った。
「ドシフェイ、仕事は終わったか。」
ドシフェイは答えた。
「はい、我が師父よ、私は上手に衣服が縫えました。」
「行って、誰それの兄弟(彼はその人の名前を挙げた)か病人に上げなさい。」
ドシフェイは喜んで自分の指導者の命令を果たした。一方、福たるドロフェイは他の衣服を縫うように命じ、ドシフェイが仕事を終えると指導者は彼に言うのだった。
「衣服を誰それの兄弟に上げなさい。」
するとドシフェイはその衣服を上げた。彼は決してこの際不平をこぼしたり、「なぜ師父ドロフェイは私の衣服を他の人に上げるように言うのか」と言ったりしなかった。逆に熱心と愛をもって自分の指導者が彼に命じたことを全て行った。
ある時、修道院の管理責任者が鍛冶屋のもとから質の良い鋭いナイフを持ってきた。ドシフェイはそれを手に取ると師父ドロフェイのもとに持ってきて言った。
「師父よ、兄弟の管理責任者がこのナイフを持ってきました。もしお許し下されば、病院用に使おうと思って、私はそれをもらいました。」
福たるドロフェイは常に病院に使い勝手はよいが、美しくないものを置いていたので、ドシフェイに答えた。
「ナイフを私に見せなさい。よいナイフかどうか見てみよう。」
ドシフェイは自分の指導者にナイフを渡した。聖ドロフェイは良いナイフであると見て取ったが、自分の弟子が物に執着するのを望まなかったので、彼に言った。「ドシフェイ、お前はこのナイフの奴隷になりたいとでも言うのか。神ではなく、このナイフがお前を牛耳ることになるということを恐れないのか。*9」
この言葉を聞くと、ドシフェイは沈黙した。克肖者ドロフェイは十分に弟子を恥じ入らせると、彼に言った。
「行って、どこかにこのナイフを置きなさい。ナイフに触れてはいけない。」
福たるドシフェイはこの命令をしっかりと守った。彼は他の勤務者がこのナイフを手にすることがあっても、他の人に渡すために自分であえてナイフを手にすることは決してなかった。ただ彼一人だけ、ナイフに触れなかったのだ。そして一度も、「なぜ私だけがナイフを手にしてはいけないと命令されたのだろう、私も他の人々と同じではないか」という考えを抱かなかった。
克肖者ドシフェイは一度もこのように考えなかったが、いつも喜んで自分の指導者が彼に命じたことを果たすのだった。
師父ドロフェイが何かを命じるようなふりをして、冗談を言った時でも、ドシフェイは自分の判断を加えずにすぐに行って、命令を果たした。彼の生涯には次のような出来事があった。最初ドシフェイは大声で話す習慣があった。福たるドロフェイはドシフェイがこのような大声で話すのを望まなかったので、冗談で言った。
「ドシフェイ、純粋なワインがほしいか。持ってきなさい。10*10」
彼はすぐに立ち上がって、ワインをなみなみ注いだグラスを持ってきた。そして指導者に渡すと、いつものようにドロフェイから祝福をもらおうとした。ドロフェイはこれを見て驚き、彼に問うた。
「ドシフェイ、何がしたいのだ。」
弟子はドロフェイに答えた。
「師父よ、あなたは純粋なワインの入った杯を持ってくるように命じました。ですから私を祝福して下さい。」
師父ドロフェイは答えた。
「わからず屋。お前が、野蛮人が酒を飲んでいる時のように大声で話すから、ワインの杯を持ってこいと言ったのだ。お前が野蛮人のように大声で叫ぶからだ。」
聖なるドシフェイは、お辞儀をして、持ってきたものを元の場所に戻した。この時からドシフェイは静かな声で話すようになった。
ある時彼は克肖者ドロフェイの所に来て、聖書のある箇所を説明してくれるように頼んだ。なぜなら従順によって心が清まったドシフェイは、聖書の意味を理解し始めたからだ。
しかし指導者は、ドシフェイが聖書の細部に気を配ることにより、彼がうぬぼれて、霊(たましい)の謙遜さを失うことを恐れた。それで弟子の質問に克肖者ドロフェイは「知らない」と答えるのだった。
その後ドシフェイが再び指導者のもとに来て聖書の他の箇所について質問すると、ドロフェイは次のように答えた。
「修道院長のもとに行き、彼にこのことを質問しなさい。私には説明できない。」
自分の指導者の命に従って、福たるドシフェイは修道院長のもとに行った。しかし師父ドロフェイは先手を打って、修道院長に言った。
「師父よ、もしあなたのところにドシフェイが来て、聖書の箇所を質問してきたら、彼の頬を軽く叩いて下さい。」
ドシフェイが修道院長のもとに来て、聖書のわからない箇所を説明してくれるように頼むと、修道院長は彼を軽く打って言った。
「なぜ何もわからないのに、黙っていないのだ。なぜあえて質問しようとしたのだ。なぜ静かに修室に座っていないのだ。なぜ自分の清らかさをより慮らないのだ。」
そして二回頬を軽く打つと、修道院長は彼を行かせた。師父ドロフェイの所に戻ると、克肖者ドシフェイは平手で赤くなった頬を見せ、言った。
「質問の答えをもらいました。」
そのほかには一言も付け加えなかった。彼は「なぜあなたは私を諭さなかったのですか、なぜ修道院長のもとに私を遣わしたのですか」と言ったりして、自分の指導者を責めなかった。
このようなことを一言も福たるドシフェイは言わなかった。彼は自分の指導者が言ったこと全てを、信仰をもって受け入れ、自分の判断をまったく交えずに、すぐに彼の命令を果たした。師父ドロフェイが弟子に何を考えているのか問うと、ドシフェイはそれを自分の指導者に話し、従順に彼の全ての忠告をじっくりと聞くのだった。この際、自分の教師の命令をたいそう忠実に守ろうとしたので、聖なるドロフェイは自分の教訓を繰り返して言う必要がまったくなかった。修道院に滞在した短い期間、彼は常にこのように行った。修道院に滞在したのはたったの五年だった。彼は指導者、自分の師父への従順から逸れることなく、完全に自分の意志を棄て、物に執着することもまったくないまま、その生涯を終えた。
克肖者ドシフェイは重い病気(肺結核)にかかり、喉から血を吐いたが、その時、半熟卵が彼の病気に効くという話を聞いた。自分の弟子の病気が治るようにとあらゆる手を尽くしていた克肖者ドロフェイは、この治療のことも聞いていたのだが、その際はそのことを忘れていた。聖なるドシフェイはある時指導者に言った。
「師父よ、私はあなたに申し上げたいことが一つあります。私は私の病気に効く治療法を一つ知っているのですが、その治療法を試さないように、命じていただきたいのです。というのは、私はあなたがおっしゃる前にこの治療法のことを考えていたので、この考えを拒みたいのです。」
克肖者ドロフェイは問うて言った。「子よ、その治療法とは何か言ってごらん。」
「あらかじめ、それを私に与えないと約束して下さい。」再び福たるドシフェイは師父ドロフェイに頼み始めた。
「よし、お前の望みどおりにしよう」と指導者は答えた。
「私はある人たちから、私のような病人には半熟卵が効くと聞きました。でもお願いします。この考えが私を悩まさないように、卵を試すな、と命じて下さい。11*11」
「我が子よ、わかった、お前が自分で私に頼んだのだから、私は強制しない。ただ、悲しむな、落ち込むな。」
実際、半熟卵の代わりに克肖者ドロフェイは自分の弟子に、彼の病気に効く他の薬を与えた。このように聖なるドシフェイは重い病気にかかった時でさえ、自分の意志を棄てるように努めたのだ。
克肖者は常に智と口で神を記憶していた。指導神父はドシフェイに常に「主、イイスス・ハリストス(イエス・キリスト)我が神よ、我を憐れみ給え。」「神の子よ、我を助け給え。」と唱えるように助言し、この祈りは常に聖なるドシフェイの口にあった。病気がさらに悪化した時、師父ドロフェイは彼に言った。
「ドシフェイ、祈りを忘れてはいけない。」
「はい、わかりました。師父よ、あなたも私のために神に祈って下さい。」受難者は答えた。
病気がさらに悪化した時、ドロフェイは尋ねた。
「ドシフェイ、以前と同じように祈りを唱えているか。」
「はい、師父よ、あなたの祈りのおかげで、祈祷を続けています。」
病気がさらにひどくなった時、ドシフェイは自分で起き上がることもできなかったので、亜麻布に乗せて彼を運ばなければならなくなった。克肖者ドロフェイは彼に尋ねた。
「ドシフェイよ、祈りは続けているか。」病人は答えた。
「師父よ、お赦し下さい。もう祈れません。」
ドロフェイは答えた。
「では祈りをやめ、ただ神の御名を記憶しなさい。自分の目前に常に神を保ちなさい。」
聖なるドシフェイの苦しみはさらに増し、ある時、彼はワルソノーフィー長老にこのように頼んだ。
「逝かせて下さい、師父よ、私はもうこれ以上耐えられません。」聖なるワルソノーフィーは人を遣わして、彼に言わせた。
「子よ、耐えなさい、神の憐れみは遠くはない。」
聖なるドシフェイがひどく衰弱しているのを見て、克肖者ドロフェイは大変悲しんだ。数日後、再びドシフェイは聖なるワルソノーフィーに人を遣わして、伝えてもらった。
「わが主宰よ、もうこれ以上生きられません。」
大ワルソノーフィーはこれに答えて言った。
「平安にして逝きなさい。至聖三者の前に立ち、全能者の宝座の前で私たちのために祈りなさい。」
大ワルソノーフィーのこの言葉を聞くと、修道士たちは憤り始めた。彼らは互いに言った。
「ドシフェイは何か偉大なことをしただろうか。彼の偉業は何なのだ。なぜ、偉大なる長老からこのような返事をもらったのだろう。」
彼らは実際、克肖者ドシフェイの特別な偉業を見なかった。かの修道院のある修道士たちがしていたように、ドシフェイが一日おきに食事を摂ったとか、誰よりも早く教会に来たとか、特別な節制をしていたのを見るというようなことはなかったのだ。彼らはみな、量は多くないけれども、ドシフェイが食事を摂っているのを見た。彼らは聖なるドシフェイが時々、病人に配った残りのジュースを飲んだり、魚の頭やその他同様の食べ物を食べているのを知っていた。この修道院には長い間、熱心に節制に励み、一日おきに食事をし、絶えず祈っている多くの修道士たちがいた。彼らはたった五年しか修道院にいない病人に大ワルソノーフィーが与えた答えを聞き、困惑したのだ。というのは、彼らは聖なるドシフェイの一言も不平をこぼさない、完全なる従順を知らなかったからだ。そのため、彼の偉業が理解できなかったのだ。それで、彼らは聖なるワルソノーフィーのドシフェイに対する言葉を聞いた時、不平をこぼし始めたのだ。
しかし主は偉大なる従順によってドシフェイに用意された光栄を見せようと思し召された。と同時に全ての人の前で、克肖者ドロフェイが自分の弟子をどれほど賢明に、早く救いの道に導いたかを見せようと思われた。ドシフェイの永眠後まもなく、ある聖なる長老で、経験豊かな苦行者が修道院へ来て、尊貴をもって迎えられた。この長老は修道院のすでに永眠した聖なる師父たちを見たいと思い、主に彼らについて何かを啓示して下さるように祈った。彼の祈りは聞き入れられ、彼は光る場所に立っている修道院の全ての師父を見る光栄を得た。その中に喜ばしい顔をした一人の若者がいた。この異象(いしょう)の後、長老は聖なる師父の中に見受けたこの若者のことを根掘り葉掘り聞いてみた。長老がこの若者の外見を描写すると、みなこれが福たるドシフェイであることがわかった。その時みなは、神を賛美し、神の言い尽くされぬ憐れみに驚いたのだった。
このように克肖者ドシフェイは短期間で天国での偉大なる光栄に至った。なぜなら、従順に励み、自分の意志を棄て、あたかも神ご自身に対するがごとく、自分の指導者の意志に服したからだ。このような行いのために、ドシフェイは天国で、全ての聖なる師父と共に、生きておられる神、謙遜で従順な者を顧みる神の前に立っているのである。この神に光栄は世々に帰す、アミン。
1 厳しく食物の節制を守っている人。
*2 人間の心やその人の過去や未来を洞察すること。
*3 食物の節制
*4 正教会での聖母の名称。神を生んだ女という意味。Богородица, Θεοτόκος
*5 つまり、ドシフェイの霊的指導者となりなさい、ということ。修道院では新しい見習いに霊的な指導者がつくのが一般的だった。
*6 1リットルは12オンス
*7 29・86g
*8 3・73g
*9 ペトル(ペトロ) の手紙後、二章十九節「勝たるる者は勝つ者の奴隷たればなり。(ニコライ訳)」「人は、自分を打ち負かした者に服従するものです。(新共同訳)」
*10 昔ギリシャ人はワインを水で薄めて飲んでいた。純粋なワインを飲むのは異邦人だ、とギリシャ人は思っていた。
*11 ドシフェイは従順によって自分の意志を棄てることに慣れていたので、指導者から言われていない考えを受け入れたくなかった。








